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最高裁判所第三小法廷 昭和63年(オ)1410号 判決

上告人

山本君雄

右訴訟代理人弁護士

高木喬

被上告人

福岡県

右代表者知事

奥田八二

右指定代理人

小巻泰

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人高木喬の上告理由一について

上告人は、原審において、旅館等の営業者として自然景観の眺望を享受する利益や水資源を利用し得る利益等を有するところ、被上告人の本件ダム設置運営等により、右利益等につき損失等を被ったと主張して、憲法二九条三項の規定に基づく損失補償請求を予備的、追加的に併合することを申し立てたが、原審は、追加的併合を不適法として、右予備的請求に係る訴えを却下した。

しかし、右損失補償請求は、主位的請求である国家賠償法一条一項等に基づく損害賠償請求と被告を同じくする上、いずれも対等の当事者間で金銭給付を求めるもので、その主張する経済的不利益の内容が同一で請求額もこれに見合うものであり、同一の行為に起因するものとして発生原因が実質的に共通するなど、相互に密接な関連性を有するものであるから、請求の基礎を同一にするものとして民訴法二三二条の規定による訴えの追加変更に準じて右損害賠償請求に損失補償請求を追加することができるものとするのが相当である。もっとも、損失補償請求が公法上の請求として行政訴訟手続によって審理されるべきものであることなどを考慮すれば、相手方の審級の利益に配慮する必要があるから、控訴審における右訴えの変更には相手方の同意を要するものというべきである。ところが、記録によれば、原審において、被上告人は、右予備的請求を追加的に併合することは不適法であるとして訴えの却下を求めており、被上告人による同意があったものと認めることはできない。したがって、上告人の本件予備的請求を追加することは許されない。記録によれば、本件損失補償請求の予備的、追加的併合申立ては、主位的請求と同一の訴訟手続内で審判されることを前提として、専らかかる併合審判を受けることを目的としてされたものと認められるから、右予備的請求に係る訴えは、これを管轄裁判所に移送する措置をとる余地はなく不適法として却下すべきであって、これと結論を同じくする原判決は、正当である。

論旨は、違憲という点を含め、原判決の結論に影響のない違法をいうに帰し、採用することができない。

その余の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐藤庄市郎 裁判官 貞家克己 裁判官 園部逸夫 裁判官 可部恒雄 裁判官 大野正男)

上告代理人高木喬の上告理由

一、(憲法違背・法令違背=民事訴訟法三九四条)

原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな行政事件訴訟法一三条・一六条一項・一九条一項・四一条二項、民事訴訟法一三二条・二三二条一項の法解釈の誤りがある。また、右に起因する憲法三二条の違背がある。

原判決は要約すると、民事訴訟法である損害賠償請求に、憲法二九条三項を根拠とする行政訴訟である損失補償請求を予備的・追加的に併合することは許されない…として、控訴人(上告人)の損失補償請求を却下している。

原判決は、行政事件訴訟法一三条・一六条一項・一九条一項・四一条二項、民事訴訟法一三二条・二三二条一項の各条文を掲記して、その法解釈を摘示しているが、上告人としては納得できない。

原判決の法解釈を要約すると次のとおりである。

1. 主たる行政訴訟に関連請求である従たる民事訴訟を併合することはできるが、その逆の場合の主たる民事訴訟に関連請求である従たる行政訴訟を併合することはできない。

2. 民事訴訟法二三二条一項を根拠とした訴の追加的変更であるとしても、同条項は同種手続を前提とするものであり、異種の手続にかかる損失補償請求の追加的変更を申立ることは許されないし、損失補償請求が控訴審において予備的・追加的になされているので、第一審での審理判断を経ていないから民事訴訟法一三二条の規定により弁論を併合することができない。

3. しかし、国家賠償法による損害賠償請求、民法上の債務不履行による損害賠償請求…以上の請求に憲法二九条三項を根拠とする損失補償請求を予備的・追加的に併合した場合と、逆に、前記損失補償請求に前記損害賠償請求を予備的・追加的に併合した場合とでは、裁判の審理の根拠を揺がすような本質的な差異が生ずるものであろうか。原判決は、「行訴法の趣旨を没却する」とか、「請求の併合の場合に手続の混在を認め、又は民事訴訟法の手続で審理がなされることは問題である」などと指摘しているが、司法的救済を求めている国民の立場からすると、民事訴訟に属する損害賠償請求であろうが、行政訴訟に属する損失補償請求であろうが、窮極的に求めているものは、一定の金員の給付を求めているものであり、その主従を問題にしているものではない。むしろ、同一の裁判手続により決着がつくことを希求し、切望しているものである。

4. 原判決は、法の形式的論理を拘泥、追求するあまり、国民のための実質的救済を拒絶するという違法な法解釈をなしている。

原判決が、控訴人(上告人)の損失補償請求に対し、「訴を却下」して実質的審理を拒んだことは、憲法三二条が国民に保障している「裁判を受ける権利」を、原判決は敢えて無視し、裁判を拒否したものであるから、憲法に違背するものである。

二、三〈省略〉

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